Lire en FETE - フランス語の本の読書ガイド

フランスの現代作家の小説、BD(フランス漫画)を中心に、私が読んだフランス語の本を紹介

なるべく多くの人に読んで貰いたいフランスの医大を舞台にした冒険小説

Coup de coeur

表紙写真 3 medecins
   「Trois médecins」
 著者 : Martin Winckler
出版社 : Folio (Gallimard )
ISBN-10: 2070336417
ISBN-13: 978-2070336418
表装 : ペーパーバック(11x4x18) 755頁  

作品評価  : (5/5)
フランス語難易度 : (3/5)
読みごこち : (4/5)

* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
* この表の見方はこちら


1970年代から80年代前半の架空のフランスの地方都市Tourmensの医学部を舞台にした冒険小説。

と、書くと 「えええ!」と思われるかもしれませんが、巷に転がっている冒険小説より、ずっと血の煮えたぎる思いがした、熱い、感動を受けた小説。

医学部に入学した4人の学生が医師になってゆく過程を、大学病院の教授の権力争いや、医者中心の古い医療体制を、患者の人間性を尊重した治療体制へと改善しようとする運動等に絡めて描いたフィクションなのですが、冒険と、名づけても、全然違和感を感じないほど、困難と罠と、友情とロマンスと人間愛に満ちたエンターテイメント小説です。

4人の医者の卵が主人公なのに、どうして、この小説のタイトルが「Trois médecins(3人の医師)」なのかは、作品のラストで明らかにされます。

大学病院という魑魅魍魎も裸足で逃げ出すようなおぞましい人間たちが徘徊する世界で、4人の若者が、知恵と勇気と優しさと友情を武器に、困難と闘いながら、自分の理想をする医学を目ざし、医師になるための勉強を続けてゆく過程が的確な筆さばきで描かれで行きます。

この小説をより良く理解するために、知っておきたいフランスの医療制度に関する予備知識が3つあります。

その一つ目は、日本とは違ったフランスの医大のシステムです。
フランスの場合、医師になるためには、『Université』と呼ばれている国立大学の医学部に入学しなければなりません。 フランスの『Université』は、バカロレアがあれば、無試験で入学できるため、日本と違って、バカロレアすら持っていれば誰でも医学部の一年生になる事が出来ます。(だから医大の1年生だといっても全然自慢にならない)
だけど、1年から2年生に進級できる生徒数は、国によって決められているため (フランスでは、医師や薬剤師の数をコントロールするための、フランスの各大学の2年生の数を国が指定する、『le numerus clausus 』という制度が存在します)、2年生へ進級できるのは、全生徒の1/6 〜 1/9 という厳しさ。 おまけに留年は1年しか出来ないので、2年に進級するためなら、何でもアリで、かなり厳しい、そして、時には卑劣な競争が繰り広げられる様です。
ジャン=クリストフ ・リュファン氏は、その様を、「Un léopard sur le garrot」の中で、第2次大戦中のノルマンディー上陸作戦に例えていましたが、それは、ちっともオーバーではないようで、バカロレアで最優秀を取った生徒でも、内35パーセントの学生が、2年間かけても、2年生に進級できないという大変厳しい状況のようです。 

二つ目は、『Géréralist(一般医)』と『Spécialist(専門医)』の区別。
日本では、フランス流の『Spécialist』しか存在しないのですが、フランスでは、どこか悪くなったら、まず行く『Géréralis』という、日本の町医に相当する医者が存在します。 『Spécialist』の方が『Géréralis』より診察料が高いため、現在は、健康保険の赤字を抑えるために、『Géréralis』を通してから『Spécialist』へかからないと、健康保険が利かないなんて事になっているので、湿疹が出ても皮膚科へ直行でなく、まず、『Géréralis』へ診断へ行くことになります。

『Spécialist』の資格を得るためには、かなり厳しい選考をくぐりぬける必要があり、大学で学ぶ期間も『Géréralis』より3年以上長くかかり、Spécialist』の診察料も、『Géréralis』より高いため、この、病気のより分けをする『Géréralis』は、『Spécialist』に比べると地位が低いという見方が医学部の一部の人の間でされている様です。 もちろん、成績優秀でも、信念から、医療の要となる『Géréralis』を選択する学生もいるようですが、一般的には、医学部のエリートは『Spécialist』に、あまり成績が良くないと『Géréralis』になるという傾向にあるようです。

それから三番目は、看護婦制度。 日本でも、国の看護婦免許を持った看護婦と地方自治体の免許の准看護婦の2種類の看護婦が存在するそうですが、昇進や給料等に差があるものの、ほぼやっている仕事は同じ。 
フランスでは、病院で病人の看護をするのは、『Infirmière』という看護婦と、『Aide soignant(e)』と呼ばれる看護アシスタントがいます。 
フランスの場合、『Infirmière』の資格を取る為、看護学校へ入学するのには、バカロレアが必要で、入学にはかなり厳しい選考があるようです。 一方、『Aide soignant(e)』の資格を取るのは、それに比べると、かなり簡単。 
『Infirmière』が担当するのは、手術のアシスタントや、検温、点滴、注射、投薬など、医療に関することだけで、患者の食事を運んだり、シーツを変えたりなどに、直接医療に関わりのない、作業は、全て『Aide soignant(e)』の仕事になります。 そんなわけで、『Infirmière』と、『Aide soignant(e)』の間には、かなり厳しい上下関係が存在します。

『Géréralis』として勤務する傍ら、『Géréralis』の治療研究サークルなどに積極的に参加し、医学関係雑誌に多く記事を寄せた経験があり、現在は、医学サスペンス小説などの執筆や、アメリカの小説の翻訳をしたりなどの、多様な執筆活動をしている Martin Winckler 氏の手による小説。 もちろん、フィクションなのですが、作り物でない迫力を持っている作品です。

全部で756ページもある本なので、ちょっと構えて読み始めたのですが、一つの章の長さが短いし、読みやすいフランス語で書いてあるし、なによりも面白いので、最後まで、本の長さなど全く感じる事なく、読み終えることが出来ました。

初めの医学部1年目の下りは、医師志望の学生達のかなりきつい運命が書かれているので、可哀想なところもあるので、ちょっと読んでいて辛くなるところがありましたが、2年目あたりからは、すいすいと読み進める事が出来ました。

病院での理不尽な治療体制、病人を実験の対象、又は自分の権力の誇示の手段としか考えていないエリート医師等に断固として反対する、4人の医学生。 
権力志向に取り付かれ、患者の事をないがしろにする医師達に立ち向かう彼らの姿は、アレクサンドル デュマの三銃士になぞられている様で、患者の人権を無視した古い体制を擁護する副病院長の名前が、リッシュリューならぬ、Leriche だったり、三銃士の首飾り事件ならぬ、万年筆事件が出てきたりして、遊び心もたっぷり。

だけど、この小説は、医師の立場から見た医療制度を一般ピープルにわかりやすく説明し、患者の人権を尊重した治療体制を確立する事の重要さ訴える事をメインに据えています。

.....le soin, ça n'est pas une question d'apptitude. Quand on veut soigner, on sait faire la différenfe entre une geste de soin et une démostration de puissance. On ne peut pas à la fois soigner et exercet le pouvoir. Quand i ly a du pouvoir, il n'y a pas de soin possible. Car le pouvoir, c'est mortel."

治療、それは能力の問題じゃない。 本当に(患者を)治療したいと思っているなら、治療と、権力の誇示の違いがわかるはず。 治療と権力行使を同時に行う事は不可能だ。 権力が介入してくると、治療する事など出来やしない。 なぜなら、権力というものは、死に至る定めにあるのだから。


等の言葉のように、現在の医師が忘れがちになっている、治療という事についての本質を語った心を打つ言葉や、心を揺さぶらされるエピソードがぎっしり詰まっている本。

この作品はフィクションですが、その中で取り上げられているエピソードはどれも、読むものの心を揺すぶらずにはいられない、リアリティーに溢れています。 多分、著者の経験、又は、実際に起こった出来事などを参考にしているのではないかと私は思いました。

患者の人権をないがしろにする旧体制に固執する悪玉医師と、四銃士の闘いの間に、医療や病院に関わる涙ぼろぼろの感動のエピソードが、所々、ちりばめられているので、ムカムカ、はらはら、わくわく、じーん、の攻撃を連続で受けてしまい、私の心臓はメロメロになってしまいました。

数え切れない程多くの本を読んできた私だけど、感動の度合いでは、今までに読んできた本の中で間違いなく、トップクラスに入る本。

医師志望の人の必読書。 
又、医療に興味がなくても、血の沸く、感動の現在の冒険小説を読んでみたいとお思いの方にも、お勧めしたい小説です。

日本語に訳して、日本の医大の参考書として使用してもらったら、日本の医者も、もっとマシになるんじゃないかなぁ・・・と、思ったりもしましたね。

そうそう、作中、黒澤明監督の「赤ひげ」を見て感動した主人公の一人が、「これは、医学生全員に見せるべきだ」と言うシーンが出てきますョ。

Martin WINCKLERの他の著作に関する記事

 | HOME | 

文字サイズの変更

INDEX

全記事表示

著者名索引

カテゴリー 別索引

お勧めのフランス語の本

多読向きのフランス語の本


Lemon.fr へメッセージを送る


プロフィール

lemon.fr

Author:lemon.fr
日本語の本が入手しづらい環境にありながら、活字中毒症から抜け出す事が出来ないため、フランス語の本を読んでいます。
Lemon.frのもっと詳しいプロフィールを見る


私が実際読んでみて感じたままに、独断と偏見で評価しています。
もし、あなたの評価と違ったらごめんなさい。m(_ _)m


このブログはリンクフリーです。事前に承諾をとらなくて結構です。 
でも、「リンクしたよん」と言って頂けると、とっても嬉しいので、お暇がありましたらご連絡下さい。

本ブログでは、コメント、TBは受け付けておりません。ご意見は、こちらから、お願いします 

本ブログの記事を、引用、転記する場合には、引用元を必ず明記下さるようお願いします。

star



ブログ内検索

カレンダー & アーカイブ

プルダウン 降順 昇順 年別

06月 | 2008年07月 | 08月
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -


ソーシャルブックマーカー


SEO対策

アマゾン・フランスで本を検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

カテゴリー

青空文庫新着(本棚)

今日のレシピ

ホームページ アフィリエイト レンタルサーバーFC2ブログ 専門学校

Template by たけやん