フランスと北アフリカを駆け巡る歴史冒険小説
2008-02-18
「L'Abyssin」
著者 : Jean- Christophe Rufin
出版社 : Folio (Gallimard )
ISBN-10: 2070406970
ISBN-13: 978-2070406975
表装 : ペーパーバック(11x3x18) 698頁
作品評価 :(4/5)
フランス語難易度 :(3/5)
読みごこち :(3/5)
* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
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1699年、カイロに駐在のフランス大使の、M.de Mailletの元に、ルイ14世の密令をたずさえた、イエズス会のVerseau神父がやって来る。
ルイ14世は、エチオピアに位置するアビシニア帝国との交流を図る事を望んでおり、アビシニア帝国の皇帝、Négusに、使者を送る事を望んでいたのだった。
金や高価な木材に恵まれている豊潤な国という噂の高い、アビシニア帝国は、カイロに住む者達にとっても、謎に包まれている、遠い、未知の国。
アビシニア帝国は、キリスト教徒を敵視しているイスラム教国に囲まれているため、たどり着くのは、至難の業。
かつて、イエズス会の神父により、アビシニア皇帝はキリスト教徒に改宗したものの、その後の行き違いが起こり、イエズス会の修道士は帝国への出入り禁止になっていた。
それ以後、アビシニア帝国へ足を踏み入れて帰ってきた西洋人はいない、危険な国だ、と言う噂が飛び変っていた。
M.de Mailletは、この命の執行に、二の足を踏むが、王の命令に背くわけにはいかず、秘書のM. de Macé と知恵をしぼったところ、アビシニア皇帝が必要としている物を提供すれば、皇帝もその使者を拒むわけにはいかないのではないかという結論に、達する。
そこで、アビシニア帝国と交易があるアラブ人商人、Hadji Ali を、領事館へ呼びつける。 Hadji Ali は、散々もったいぶった末、謝礼金を手にすると、次の事実を領事に明かす。
Hadji Ali が、カプチン派修道士の治療により、皮膚病が治った事を知り、皮膚病を病んでいる皇帝は、医師を連れて来るよう、Hadji Ali に、要請した。
ところが、カイロに戻ってきてみると、彼を治療したカプチン派の修道は老齢のため、この世を去ってしまった。 仕方がないので、Hadji Ali は、別のカプチン派の修道士がカイロに着くのを待っているところである。
医師をフランス王の使者として、アビシニア帝国に送るのには、承諾したものの、イエズス会の神父であるVerseau神父は、フランス王の使者として、イタリアのカプチン派の修道士をフランス王の使者として送ることに、強い反対の念を示す。
そんなわけで、M.de Mailletは、いなくなっても、カイロのフランス人社会に障害をもたらさない、腕利きの医師を探す事にする。
そして、秘書のM. de Macé のアドヴァイスの元、カビが生えたルイ14世の肖像画を見事修復した、薬剤調合師のJuremiに、相談を持ちかけ、薬剤師のJean-Baptiste Poncetを紹介される。
元来の放浪癖があり、ヴェニスに滞在した折、友人から聞いた、Christophe de Gama と共にエチオピアに赴いた Joào Bermundezの冒険談に憧れていたPoncet は、アビシニア帝国へ赴くことを承諾し、M.de Mailletは、胸をなでおろす。
しかし、その準備のため、フランス領事館へ出入りしているうちに、Poncetは、フランス領事の一人娘のAlix に、恋するようになってしまう。
M.de Mailletに、強引に、留守中の彼の薬草の世話を Alix に任せるという約束を取り付けた、Poncetは、Hadji Ali と共に、アビシニア帝国への危険に満ちた長い旅に出る。
「Rouge Brésil」で、 2001年にゴンクール賞を獲得した、ジャン=クリストフ ・リュファン氏の処女作。 この作品も、1997年に、ゴンクール賞処女作賞を受賞しています。
ルイ14世が、エチオピアにあるアビシニア帝国に、カイロのフランス大使館を通じてCharles Poncet という名の医師を使者として送ったという史実を元に、自由広大な想像力を疾駆して書かれた、フランスと北アフリカを駆け巡る歴史冒険小説。
処女作だとは、信じがたい程、完成されている小説。
エンターテイメントとしてのツボをしっかり押さえて書かれている上、著者の凛とした価値観が背骨のように、作品全体を貫き、支えているので、ただのエンターテイメント小説にない、深みのある作品に仕上がっています。
ジャン=クリストフ・ リュファン氏は、私のお気に入りのフランス人作家の1人なのですが、全部で、700ページ近くもある長編歴史小説なので、手に取るのに気後れを感じていましたが、読み始めたら、止める事の出来ないスリリングな展開の小説でした。
さすがに、一気に読み終える事はできませんでしたが、退屈する暇などなく、最後まで楽しみながら読む事が出来ました。
恵まれない境遇に生まれ、6歳のときに薬剤師の下へ奉公に出されてから、自分の才覚のみで、薬剤師としての技術を身につけたものの、医師としての資格がないため、ヨーロッパを追われ、北アフリカの各地を転々とし、カイロにたどり着いたJean-Baptiste Poncet。
この主人公、礼儀作法や身なりには無頓着、正義感があり、身分、富で人を区別することなく、だれにも同様な態度で接し、貧乏人には、無料で治療をほどこす、赤ひげのようなキップのいい、大変魅力的な人物として描かれているので、自然と、彼に感動移入してしまい、おしまいのページまで、ストーリーに引っ張り込まれてしまいました。
そして、主人公だけでなく、彼を取り巻く登場のキャラクター設定も良く出来ています。
プロテスタントであるため、迫害を受け、色々な職業を経験した末、カイロまで逃げてきた、一本木で、口の悪い、Poncetの親友、Juremi、
吝嗇で、思いやりに欠けているけれど、自分の保身にかけては、妙に知恵が働くカイロのフランス大使、M . de Maillé とその秘書、M . de Macé
異教徒を憎悪する、狂信的なイエズス会の神父達、
利益を得ることを第一に考え行動する、狡すからい商人、
愛を貫くために、知恵をしぼり、自らの手で、障害を越えてゆく強い意志を持ったAlix de Maillé、
Alix を陰から助ける、奔放な愛の経験のあるFrançoise、
等の多彩な人々が登場し、心躍る歴史冒険物語を繰り広げて行きます。
残酷な風習のため、野蛮な民族のように見える、アビシニア皇帝やカイロのパシャの賢知ぶり、そして、それと対照的な、洗練されているように見えるけれど、実は、滑稽なほど、お馬鹿で卑小なルイ14世を初めとしたフランスの権力者達の姿や、事実を自分達の都合のいいように押し曲げてそれを通してしまう、腹黒い王を取り巻く人々の姿を浮き彫りにしながら、外交政治の複雑さを読者の前に紐解いて見せます。
自分達の信仰や、文明を至高と思い込み、異国の人々に押し付ける事により、どれほど失うものが多い事かを読者に語りかけると同時に、異文化との接触を、征服という形でしか、考えられなかった権力者への、強烈な批判を投げかけます。
そんな、ただの娯楽小説とは、一線を画している、芯のあるエンターテイメント歴史小説でした。
この作品は、「太陽王の使者」のタイトルで邦訳が出版されているようです。
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