Lire en FETE - フランス語の本の読書ガイド

フランスの現代作家の小説、BD(フランス漫画)を中心に、私が読んだフランス語の本を紹介

フランスで30週間売り上げベスト1の座を持続したベストセラー小説

Coup de coeur

herisson
   「L'élégance du hérisson」
 著者 : Muriel Barbery
出版社 : Gallimard
ISBN-10 : 2070780937
ISBN-13 : 978-2070780938
表装 : ソフトカバー(14x2x21)358頁
 

本の評価 : (5/5)
フランス語難易度 : (4/5)
読みごこち : (3/5)


* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
* この表の見方はこちら


パリの高級住宅街にある、グルネル通り4番地にある、高級アパートメントの管理人のRenéeは、一見すると、小太りで、小柄のさえない容姿の54歳の未亡人。 15年前に夫を亡くしてからは、1人で、管理人の仕事をしながら生計を立てている。

ところが、Renéeは、ダサくて貧乏臭い管理人のおばさんの仮面の下に、古今東西の文学、美術、思想に関する幅広い知識を身に着けた、博識な教養人という誰にも知られていない一面を隠し持っていた。

トルストイを深く愛し、マルクス、カントをはじめとした哲学書はおろか、Guillaume Ockmanなどの専門家向けの思想書を読み漁る、彼女は、買い物籠の中に、思想書を隠し持ちながら、政府高官や、元大臣や、グルメ批評家、実業者等の住む、マンションの玄関や階段の掃除をしたり、郵便を配ったりして、毎日を過ごしていた。

Palomaは、Renéeが管理するマンションの6階に、元大臣の父と教養高く美しい母と、パリの超エリート大学に通う姉と共に住んでいる、12歳の女子中学生。 ずば抜けて高い知能を持っており、谷口ジローの漫画を愛する彼女は、人生に深い失望を感じており、13歳になったら、この世を去ろうと密かに決心を固め、手記を書き溜めていた。

同じ建物に住んでいるにも関わらず、身分、世代が違うため、本来なら、交差するはずのない人生を歩んでいた二人だったが、Kakuro Ozuという初老の日本人が5階に引っ越してきたことから、二人の人生は、新たな局面を迎える。


Wikipédiaによると、フランスで30週間、売り上げベスト1の座を持続した、ベストセラー小説。

この本、もし、昨年中に読んでいたら、間違いなく、2007年ベストセレクションの第1位に輝いたかもしれない、と思われた小説。
だけど、形容するのが、とっても難しい作品なので、うまくこの作品の魅力を伝える事が出来るかちょっと心配です。

『はりねずみの洗練美』を持つ管理人のおばさんを主人公とした、新手の現在のシンデレラストーリーに絡め、思春期にさしかかった少女が人生の目的を模索する様子を描いたお話を骨格に据え、それに、フランスの上流階級を皮肉った数々のエピソードや、人生や日常ぶつかる些細な事柄に関する、哲学的な考察や、指摘などで、肉づけして、仕上げられた思想小説的な匂いのする作品。

現在の大人向けの寓話といった趣を持つ洒落たストーリー、
優美なフランス語を屈指した独特のスタイル、
彩色溢れる繊細な、二人のヒロインの心理描写、
抱腹ものの、ウイットや知的ユーモアに満ちた数々のシーン、

等の、優れたエンターテイメント小説に欠かせない要素を満載している作品ですが、それだけでなく、娯楽本ではあまり、お目にかかることのない、人生や、社会に対する思想的アプローチが盛り込まれている小説です。

フランス社会や、フランス語や、人生に対する、的確な考察や、注釈が作品を通じて提示され、なかなか、考えさせられました。

ただのエンタメ小説としても楽しめるけど、それだけはない、2重底の作りになっている小説なのので、一度目は、小説として楽しんで、2度目、3度目には、人生について思いをめぐらせながら、思想の手引書として、じっくりと読み返してみたい、そんな本です。

この本を図書館で借りたとき、カウンターにいた図書館員の人が、

「この本、凄く良かった。なるべく多くの人に読んでみたい本よぉ」

と、興奮して、言っていましたが、私は、特に、人生に疲れ、失望した、Palomaのように自殺を考える人たちに、この世を去る決心する前に、是非一度読んでもらいたい本だと思いました。

この小説、暗誦したくなる優れた言い回しが沢山出て来るのですが、特に、ラストのこの文章は、逸品。

En pensant à ça, ce soir, le coeur et l'estomac en marmelade, je me dis que finalement, c'est peut-être ça la vie : beaucoup de désespore mais aussi quelques moments de beauté où le temps n'est plus même.
Comme si les notes de musique faisant un genre de parenthèse dans le temps, de suspension, un ailleurs ici même, un toujours dans le jamais.
Oui, c'est ça, un toujours dans le jamais.

(中略)

Car, pour vous, je tracerai désormais les toujours dans le jamais.
La beauté dans ce monde.

(そんな事を思いながら、今日の夕方、心臓と胃がごちゃごちゃになった様な気持ちを抱え、人生なんて、結局、そんなものじゃないかと考えた。 沢山の失望、だけど、ふと一瞬、時が趣きを変え、優美さを垣間見せる、そんなひとときも幾度か訪れる。
あるメロディーが、時の間に括弧みたいな何かを挿入してゆくように、一時休止を、彼方の土地を今ここへ、一つの不変を絶無の中に、運び込んでゆくような、そんなひとときが。
そう、そう、絶無の中の、一つの不易(un toujours dans le jamais)。

(中略)

だって、あなたのために、これから、わたしは、絶無の中に、いくつもの不易を印してゆくのだから。 この世の美しさを。


著者は、かなり日本へ傾倒しているようで、Kakuro Ozuに象徴される、日本文化に対する過大な評価が、作品を通して見られるので、私は、少々、こぞばゆい思いをしました。

ミュリエル バルベリさんや、この本を読んだフランス人を失望させないために、日本人も、もっと、なんとかしてもらいたいなぁ・・・とつくづく感じてしまいましたね。(^^;)

フランスで、大ヒットした小説なのですが、ネットでの批評を読む限り、めちゃくちゃ好きになるか、全然好きになれないか両極端に分かれるタイプの本みたい。

Kakuro Ozuの心理描写が希薄なのが、少々残念に思えましたが、そんな瑕瑾が気にならないほど、圧倒的な魅力を持っている作品なので、私は、しごくに入ってしまったのですが、

日本文化をべたほめしているので、気に入ったんじゃないの?

と、誤解を受ける事が明白なので、あまり、両手を上げてフランス人に勧める事が出来ないのが、とても辛いところです。

フランスで30週間、売り上げベスト1の座を持続した、ベストセラー小説

興味のある方は、著者のブログ 

http://muriel.barbery.net/

も、ご参照下さい。

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