Lire en FETE - フランス語の本の読書ガイド

フランスの現代作家の小説、BD(フランス漫画)を中心に、私が読んだフランス語の本を紹介

パリの女性ホームレスの手記

Coup de coeur

en bas de chez vous
   「J'habite en bas de chez vous 」
 著者 : Brigitte & Véronique Mougin
出版社 : Pocket
ISBN-10 : 2266174738
ISBN-13 : 978-2266174732
表装 : ペーパーバック(11x1x18)248頁



本の評価 : (5/5)
フランス語難易度 : (3/5)
読みごこち : (4/5)


* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
* この表の見方はこちら


このノンフィクションのヒロイン、Brigitteは、2003年12月5日の夜、身も心も、そして貯金まで捧げ、2年近く供に暮していた同棲中のパートナーの暴力に、生命の危険を感じ、ハンドバック一個を持ち、家を逃げ出します。
そして、夜中、町を彷徨ったあげく、公園のベンチで夜を明かします。

翌日、唯一の肉親であるけど、あまり行き来のない妹に、公衆電話から電話をかけますが、
「生憎、今夜はお客さんを招待しているので、泊める事は出来ない」
と、答えられてしまいます。
恋人の仕事を手伝うため、退職し、彼に貯金まで貢ぎ、そんな彼女を見かね、忠告した友人達を遠ざけてしまったBrigitteは、自分には頼れる人がいないことに気がつきます。

仕方がなく、ベンチへ後戻り。 しかし、酔っ払いにからまれ、身の危険を感じ、途方に暮れたBrigitteは、警察へ足を向けます。
そこで、警官から、
「115番へ電話しなさい」
と言われた、Brigitteは唖然とします。
115番は、ホームレスのためのSOSフリーダイアル。 

「私は、浮浪者なんかじゃない」

そんな彼女に、警官は、住居のない女性のためのセンターに電話をかけ、センターの住所を渡し、そこに問い合わせるよう、勧めました。

寒い町を歩き、やっとの事で、センターに辿り着き、身分証明書を提示し、身上を説明しますが、係員の親切な女性の口から出たのは、

「現在満員なので、空きが出来たら電話します」

という冷たい言葉。
仕方がないので、警察へ逆戻り、警官は、今度は、115番に電話をかけますが、お話中で、つながりません。 そこで、警官は、所内に、簡易ベットを設置し、Brigitte に、そこで休むように促しました。

翌日、Brigitteは、市役所に行き、ケース・ワーカーに会いますが、
「市役所の管轄の住民でないなら援助できない」
と言われてしまいます。 
家出の原因の男が住む、以前住んでいた町に足を向ける事など、絶対にできないBrigitteは、再び、警察で、夜を過ごします。

「以前に住んでいた町の市役所に行けば何とかなるのでは」
という、アドヴァイスにすがり、翌日、Brigitteは、11区まで、とぼとぼと歩いて行きます。 市役所に入る勇気を振り起こそうとしているしている最中に、彼女は日曜日である事を思い出します。

途方に暮れたBrigitteの足は、11区の警察へ向かいます。 そこで、
「サン・アントワンヌ病院へ行きなさい」
と言われたBrigitteは、おずおずと、病院へ向かいます。 サン・アントワンヌ病院は、夜間の間のみに、ホームレスが眠れるように、病院の1区間を開放していたのです。
Brigitteは、床に置いた寝袋に包まり眠る人々を横目で見ながら、壁際に並べられたスチール椅子に座り、眠れない夜を過ごします。
そして、翌朝、Brigitteは、14歳の頃から放浪生活を送っている38歳のTomというホームレスと出会います。


2003年12月から2005年2月まで、ホームレスとしてパリで暮らした45歳の女性の手記。

薄幸の幼年時代、父親の死、自立、そして彼女を折檻し続けた母親の死、恋人との出会い、恋人との幸せな時期、そして、全てを棄てて、家出をしなければならなくなった経過、などが、作品の冒頭で語られます。

第6章からの、路上での生活を語った部分に比べると、この1〜5章は、主人公の一方的な見解のみに基づき書かれているためか、読んでいて、少々、何かはっきりしない、もやもやみたいなものを感じずにはいられいませんでした。

だけど、第6章以降からは、語り手の視点が、幅、奥行き共に、広がりを見せ、ホームレスから見た、路上での生活の実態と、住む所のある者には、理解しがたい彼らの心理が、迫力とリアリティー一杯に、読む者の胸に迫ってきます。

路上生活から、おさらばするには、働かねばならない。 だけど、住居を持たない者には、仕事を見つけるチャンスは皆無、という矛盾に気づかされるBrigitte。

路上では、常に死と背中合わせ。 生き残ってゆくために、飢え、暴力、寒さから、身を守るため、ありとあらゆる知恵をしぼるBrigitte。

フランスのケース・ワーカーやお役所の無能さに激怒し、
ホームレスに食事を提供するものの、食事の前の祈りを強制する、宗教系のホームレス援助団体へ強い批判を向け、
彼女らがたむろしている、パリの高級住宅街の住人達が、ホームレスに暖かい援助をしているのに、同じ建物に住んでいる元大臣が、警官を派遣し、彼らを追い払おうとしたのを知り、憤慨する、Brigitte。

そして、アルコールとドラッグに溺れる仲間達を横目に見ながら、自分は常にクリーンであろうと決意し、何とか、普通の生活を掴もうと必死で努力する Brigitte。

そして、寒さと飢え、暴力、アルコールとドラッグの誘惑と戦いながら、路上生活者である彼女たちに好意を示してくれる人々に感謝すると同時に、無理解な人々の冷たい態度に耐え、友人達の死、路上生活を共にした恋人のアルコール中毒症治癒の挫折などの、数々の不遇と失望をも乗り越えて、ホームレス援助のNGOの助けにより、Brigitteは、やっとの事で、パートの仕事と人並みの住まいを手に入れ、新しい一歩を踏み出す事に成功します。

路上生活で、精神が粉々に砕かれ、自分のプライドのみを支えに生きていたBrigitteが、自分が路上から抜け出すためには、彼らの助けが必要だと認め、NGOの人たちの差し出す援助を受ける事を決意する下りは、感動的。

国民の税金で、給料をもらっているケース・ワーカー達の無能さに比べると、このホームレス救済団体の人々のホームレスの身になって物事を対処する、その辛抱強い、真摯な姿勢には、頭が下がりました。

又、この本を通して、定職を持っていても、収入が不十分だとみなされて、普通の住居を借りることが出来ないため、子供といっしょに、緊急宿泊センターに滞在している人々がいる事実や、保護を受ける権利を得るためには、4ヶ月以上、路上生活をしなければならない等という、言語同断の規則等、パリのホームレスが直面しなければならない、不可解な現実が存在する事を知りました。

日本と比較すると、社会福祉がかなり、発達しているフランスですら、この状況。 日本の路上生活者の事を考えると、暗澹とした気持ちになりました。

ホームレスの女性を主人公とした小説「Conte d'asphalte」は、私の人生観に大きなゆさぶりをかけた作品でしたが、この手記に比べると、そんな作品でさえ、色あせて見える程、心に迫ってくるノンフィクション。

私は、この本を読みながら、数えられないほど、涙を流しました。

最後のページを閉じた後、今度街角で、路上生活者にあったら、勇気を持って「Bonjour」と声をかけようと、密かに決心を固めました。

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