自信を持ってお勧め出来る、スケールの広い社会派サスペンス
2007-11-23
Coup de coeur
「L'attrapeur d'ombre」
著者 : Patrick Bard
出版社 : Points
ISBN-10: 2020798387
ISBN-13: 978-2020798389
表装 : ペーパーバック(11x3x18)406頁
作品評価 :(5/5)
フランス語難易度 :(3/5)
読みごこち :(4/5)
* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
* この表の見方はこちら
紆余曲折を経て、報道カメラマンとなった、Sebこと Sébastien Meyerは、紛争の真っ只中のユーゴスラビアで、撮影中に、砲弾を受け倒れる。
国連から派遣されたフランス軍兵士に救われ、命は取り留め、フランスへ急遽、運ばれたものの、効き目を失明した、Sebは、カメラマンとしての生命が断たれた事を自覚し、絶望の淵に立たされる。
両親とは、絶縁しており、フリーランスで仕事をしていたため、何の保険にも加入していなかった Sebは、同業者の奔走により、彼が契約していた雑誌社から、多少の援助を受けることに成功したものの、カメラマンとしての仕事が出来ないため、すぐに生活に困るようになった。
そんなSebに救いの手を差し伸べたのは、共にスクーター泥棒をした幼馴染だった。
彼の紹介で、アパートの改装をし、細々と暮らしていた Sebの元に、ユーゴスラビアで一緒に組んで仕事をしていた、イギリス人カメラマンからの電話がかかってくる。
彼は、Sebの事故の時現場に落ちていた彼のカメラを届けに来たのだった。
そして、傷だらけになったカメラに、奇跡的に、無傷のまま装着されていた、フィルムを現像した Sebは、撮影した事を全く覚えていない、ミニバスがフィルムに映っているのを目にする。
そして、Seb は、自分が狙撃された当時の状況を突き止め、自分を失明に至らせた犯人を見つけ出し、復讐する事を誓う。
タイトルの「L'attrapeur d'ombre(影を捉えし者)」とは、写真家の事を指した表現との事ですが、なかなか的を得た表現だと感心しました。
以前紹介した、「La Frontière」、「La quatrième plaie」の著者Patrick Bardの2作目の小説にあたる作品。
流れるような読み心地の文章、読者を釘づけにして放さない、テンポのあるストーリー展開、そして、卓越した作品の構成手法。
隠された真実が明らかになる後半の下りには、心臓をぎゅっと捕まれたような思いを味わされました。
虚構と事実をかみ合わせて構成された、スリリングなサスペンス小説なのですが、戦争、貧困に荒れ果てた国で苦しむ人々の弱みに付け込み私利を肥やす先進国の醜悪な人々を糾弾する、というテーマが作品の支柱に据えられている、硬派のエンターテイメント小説です。
だけど、作中人物の心理および、行動を中心としてかかれており、この手の小説につきものの、堅苦しい社会的な状況説明は皆無なので、固く構えず、読む事が出来る本です。
2006年ベストセレクション第1位に私が選んだ「La quatrième plaie」を読んだ時に受けたショックを再び感じることが出来た、圧倒的な力を持つ作品。
読み終わってから数日経っているというのに、読後感のショックから未だに抜けきる事が出来ずにいます。
この胸の思いを言葉に変える様、何度も努力したのですが、どんな言葉も、この本を読み終わって受けた衝撃を伝えきる事が出来ない事に気づき、無力感に襲われています。
ただ、ちょっと気になったのは、作中出てくる、「Snuff mouvies」ヴィデオに関するかなりグロテスクな場面。
この手の表現が苦手な私には、
「この下りは、これほどまでに執拗に書かなくても、良かったんじゃないの?」
という、気がしました。
飛ばして読んでも、作品を理解するさまたげにはならないので、その手の表現が苦手な方は、そこの部分だけ、飛ばして読まれる事をお勧めします。
この本が出版されたのは、2004年。
出版されてから3年も経ったというのに、こんなスゴイ作品が日本の読者に紹介されていないというのは、日本のサスペンス小説ファンの方々への冒涜だとすら思えましたね。
Patrick Bard 氏の作品はこれで3冊目ですが、すっかりPatrick Bard 氏のファンになってしまった私は、首をきりんにして、次回作を待っています。
ああ、これだから読書はやめられない。
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