諜報員が、世論を操って行くからくりを中心に据えたスパイ小説
2007-07-14
「Le Muezzin de Kit Kat」
著者 : Percy Kemp
ISBN-10: 2253116610
ISBN-13: 978-2253116615
出版社 : LGF(Le livre de poche)
表装 : ペーパーバック(11x1x17)200頁
全体評価 :(3/5)
フランス語難易度 :(4/5)
読みごこち :(3/5)
* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
* この表の見方はこちら
ベイルートで、恋人のMariaと優雅な生活を謳歌していた、イギリス諜報員、Harry Boone は、上司の命令で、エジプトに転勤を余儀なくされた。
マリアと共に、エジプトに赴任したものの、雑然としたカイロに馴染めず、ベイルートを懐かしく思いながら、Booneは、カイロでの諜報網作りに取り掛かる。
BooneとMariaの自宅のそばには、 「Le Muezzin de Kit Kat」と呼ばれる、モスクが、たちそびえており、その塔の上から、若いイマムBilal Abdel-Ghaniが、キリスト教徒のMariaですらうっとりさせてしまう美声で、毎日、ムスリムへのメッセージを呼びかけていた。
ある日、Bilal Abdel-Ghani が、現在イスラエルの国境に建設中のテロ防止の壁の建設に反対するため、ムスリム達に、イスラエルの国境まで、平和行進をすることを呼びかけ始め、この、メッセージが、カイロのムスリムの間に広まり始める。
イスラエル、アメリカをはじめ世界の国々の政府首脳は、これを、微妙なバランスを保っていた中東の平和を脅かすものと危惧し始め、Booneの任務にも、少なからない、影響を及ぼしはじめる・・・
ジョン ル カレを思わせる、第1級のスパイ小説
という、この本の裏表紙に書いてあるキャッチフレーズに誘われ、躊躇することなく購入した本。
この本が出版されたのは、2004年、Harry Boone シリーズの第4巻目だそうです。
ベイルートの事情が急変してしまった現在なら、ベイルート勤務の諜報員はかなり忙しいんじゃないと思われるので、この小説の冒頭の部分は、ちょっと時事的とはいえないけれど、それを除外したら、現在の政治的状況に、ピッタリマッチしたタイムリーな作品。
私は、Harry Boone シリーズは、これが初めてなのですが、今までの巻を読んでいなくても、全く違和感が無く作品を堪能する事が出来ました。
アクションタップリのスパイ小説ではなく、実際に諜報員が、どうやって世論を操って行くかという、からくりを書いた作品。
だから、ジェームス・ボンドばりの、アクジョンタップリのスパイ小説を期待している人には、あまりお勧めできません。
どちらかというと、私があまり得意でない、まどろっこいタイプの作品なのですが、それにもかかわらず、私は、かなり楽む事が出来ました。
国家のために命をかけるなんて、とんでもない、優雅で気楽な生活が出来るので、スパイになったのではないかと、思われる、あまりスパイ小説では、お目にかかることの出来ない、ほんのちょっぴり、ものぐさ風で、クールで、シニックな主人公Harry Boone。
でも、ただ、シニックなだけでなく、このアイルランド系イギリス人諜報員は、ちゃんと正義感も持っており、上司からの理不尽とも、取れるような命令には、なんとか、のらくらしながら、かわそうとしたりするので、読んでいて大変好感が持てます。
でも、この Harry Boone、シニックで優雅な暮らしを好む、ぐうたら男ではなく、一流の諜報員。
彼がどの様に、諜報網に利用できる人間を観察し、分析し、彼らの心を捉えてゆくのか等々のテクニックが、いくつもの具体的な例を交えて語られてゆくのですが、これが、とても面白い!
また、エジプトを初めとする中近東の習慣や、人のものの考えに関する、鋭い分析や、薀蓄をユーモアに包みながら語るそのテクニックも中々優れたものだと思いました。
だけど、ストーリー運びはいささかスローモード。
読みながら、
「それは、それでいいけど、ぐずぐずしてないで、早く話しを進めてよ!」
と、叫びたくなることが何度かありました。
だから、この作品は、テンポのいい、アクションにタップリの作品を期待している人には、お勧めできません。
読む人の好みによってかなり評価が変わるタイプの作品だと思いますが、複雑な、中東の政治事情を、見事に切り取り、シニックなユーモアで包み仕上げた、秀作なので、中東の政治状況に興味のある方には、自信を持ってお勧めできる作品です。
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