小説好きなら読んでみて損をしないフランスの小説
2007-05-16
Coup de coeur
「Aller simple」
著者 : Didier Van Cauwelaert
出版社 : LGF - Livre de Poche
ISBN : 9782253138532
表装 : ペーパーバック(11x1x18)128頁
全体評価 :(4/5)
フランス語難易度 :(3/5)
読みごこち :(4/5)
* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
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赤ん坊の時にジプシーに拾われマルセイユで育った、カーラジオの盗みを生業としている19歳になるAzizと、ロレーンヌ地方の貧しい鋳造工の父親を持つ、パリの高級官僚の、Jean-Pierre という二人の男がこの小説の主人公。
Azizは、盗みに専念し、育て親に恩返しするため、中学校を中退した。
彼は、彼が学業を断念するのを惜しんだ中学校の社会科の教師から送られた世界の地理と神話が書かれた本を宝物のようにしている。
戸籍のないAzizは、偽造身分証明書を偽造屋から購入するが、経費節約のため、彼が買ったのは、モロッコ国籍の偽造身分証明書。
盗みで、やっと一人前と、ジプシー仲間の間で認められ、四苦八苦の末、恋人の父親を説得する事に成功し、意中のLilaとの婚約にこぎつげたが、運悪く、婚約パーティーの真っ最中に現れた警官に逮捕されてしまう。
逮捕の理由は、宝石泥棒。
彼が婚約指輪を買った、宝石商件、身分証明書類の偽造屋件、情報屋が、彼に指輪を盗まれたと、警察に密告したらしい。
盗みを生業としているものの、婚約指輪は、正直に金を出した買った Azizは、宝石商を嘘つき呼ばわりするが、誰も彼に耳を貸そうとしない。
おまけに、彼は、フランス政府が、試験的に始めた、不正滞在者の強制送還システムの第1号として選ばれてしまう。
フランス政府は、強制送還者が自国で成功している前例を作り、このシステムが『人道的』にも正しい事をメディアに、印象づける事が必要と考え、高級官僚のJean-Pierre を、Azizの帰国に同行させることにする。
「Azizに仕事を見つけ、強制送還された不法滞在者が、帰国後成功しているという実歴を作れ」
との任務を受けたJean-Pierreと共に、Azizは、見知らぬモロッコへ、『帰国』する羽目になってしまったのだが・・・
とっても不思議な魅力を持つ小説。
全く予想もつかない方向へどんどん、読者を誘い込んでゆく、意外性に溢れるストーリー展開、何度もお腹を抱えて笑ってしまったユーモア溢れる語り口、そして、作品全体に漂う人間に向けられたやさしい視線。
そんな、要素に満ち溢れている小説です。
口がうまくて、物事を丸くおさめるためなら、嘘がすらすら口から出てくる、Azizと、生真面目で、不器用なため、人生に行き詰まりを感じている、Jean-Pierre、この二人をめぐる奇妙で、おかしくて、ジーンとくる物語。
読み終わった後、後を引く小説。
本を閉じた後でも、作中人物の気持ちが、いつまでも心に引っかかったままで、消えてなくなりません。
そして、作品の一場面が、時折ふと、まるで自分が体験した事のように、頭の中に蘇り、心をきゅんとさせてしまいます。
今まで、読んだDidier Van Cauwelaert 氏の作品で、私が、一番好きな作品です。
出来るだけ予備知識なしで、この作品を発見してもらいたい、そんな作品なので、詳しいことは書きませんが、小説好きの方なら、読んでみて、絶対損をしない、そう断言できる作品だと思います。
この作品は、1994年に初版出版され、その年のゴンクール賞を受賞しています。
現在では、考えも及びつかないことですが、フランスの世論が、不法滞在者を強制送還するのに、ためらいを感じていた、そんな20年前のフランスの社会背景もおぼろながらに、伝わって来て、複雑な思いを感じずにはいられませんでした。
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