パリのブルジョワ家庭の高校生の家出物語
2007-01-25
「Julien Parme」
著者 : Florian Zeller
出版社 : Flammarion
ISBN-10 : 2080688960
ISBN-13 : 978-2080688965
表装 : ソフトカバー(14x21)311頁
全体評価 :(3/5)
フランス語難易度 :(3/5)
読みごこち :(4/5)
* 上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい
* この表の見方はこちら
主人公のJulien Parmeは、パリの私立高校に通う男の子。
母親に強制されて、朗読ボランティアをしている、目の不自由な老婦人のお金を、将来有名になったら、ちゃんと返すから、と言い訳しながら、お小遣いにと、失敬してしまったりするJulienは、決して、まじめな高校生、優等生ではないけれど、バスに火炎瓶を投げ込んだり、路上駐車している車に火をつけたりする現在フランスのニュースで話題になっている、「Banleiu」のワルに比べると、まあまあ、おとなしめの、ブルジョワ家庭の不肖息子。
お母さんの話によると、Julienのおとうさんは、彼が9歳の頃、ガンで亡くなった。
だけど、彼には、殆ど父親の記憶が残っていない。
そんなわけでJulienは、母親と二人で暮らしていたが、2年前、Julienお母さんは、貴族の称号を持ち、17歳のBénédicteという女の子がいる、Françoisと恋に落ちて、同棲しはじめた。現在、Julien は、おかあさんと、François、Bénédicte、と一緒に暮らしている。
Julien の母親と生真面目なBénédicteは、とても仲がいいが、Julien は、真面目すぎるBénédicteや、『まぬけな』Françoisが、気に障って仕方がない。
そんな、ある日、なんとか、友達のMarcoに頼み込んで、Julienは、密かに片思いしている、Mathilde の姉の誕生日パーティーに、一緒に連れて行ってもらうように、取り計らう。
だけど、高校のトイレでタバコを吸っているところを見つかって、家に報告されたため、おかあさんから外出禁止をくらってしまう。
おまけに、もっとショッキングな出来事に、相次ぎ見舞われ、意気消沈したJulienは、Françoisのキャッシング・クレジットカードをねこばばして、二度と帰らないと決意して、家を出る。
この小説は、初めから終わりまで、Julienのモノローグで綴られています。
現在、普通のフランスの中高生が普段使っているような、話し言葉で書かれた作品なので、ここで、使われているフランス語は、上品、優美、流暢、格調のある、といった形容詞とは、あまり係わりがない、小説では、あまりお目にかかる事の出来ない普段着タイプのフランス語です。
文学的なフランス語には、縁が遠い作品ですが、実際、現在のフランスで話されている、フランス語を生に感じる事が出来る本です。
又、言い回しにユーモアがタップリ含まれていて、又、文章のテンポがとてもいいので、とても読みやすい本でした。
この主人公の口癖の、文章の後に、意味なく
「et tout.」
と、付け加えるのは、ホント耳障りですが、現在フランスで、誰もが良く、口にしている言葉です。
10代の子ならまだしも、ちゃんとした責任のある地位についているいい年した大人が、テレビのインタビューで、「et tout」
なんて、連発しているのを耳にすると、ホント、うんざりさせられます。
誇大妄想、虚言症の傾向がある主人公の男の子が、コロコロと坂を転がるように、自分でも気がつかないうちに、危ない方向へ、直進して行く様子が、彼の目を通して語られます。
単なる、ブルジョワ家庭の甘ったれの不良少年の家出ごっこの話じゃない、
と思って読んでいたのですが、ラストまで読んで、著者の意図が別のところにあるのではないかしら?
という疑問が頭に浮かびました。
この本の読み始めた時点では、Julienが、常識の欠片も持ち合わせていない、まとも考えの持つ主でない事が、はっきりとわからないので、私は、彼のテンポに丸め込まれ、彼と同じ目線で、事の次第を追って行き、彼の判断基準に自分をゆだねながらストーリーを追ってゆきました。
しかし、読み続けてゆくと、彼の考え方が、少々常軌を外れている事に気がつき、今まで読んできた出来事が、常識的な大人の視点から見ると、実は、全く別の意味を持っていた事に、はっと気がつきます。
常識から外れた価値観、倫理観を持つ、Julienの目を通して、語られる世界は、一般常識を持っている大人の目を通して見た世界と、こんなに違うものかしら。
と、唖然とする思いを味わいました。
大人と違う常識を持っている少年の、頭の中で起こっている事を、克明に描いた作品です。
少々常軌をはずれている行動をする子供達を、
『どうして、こんな馬鹿な事をするのか、信じられない』
と一蹴してしまうのでなく、彼の身になってストーリーを語る事が出来るのは、著者が子供の心を失わないだけでなく、自分を全く違った価値基準を持っている子供達を一人の人間として、尊重しているからかもしれません。
そんな子供達を、否定も肯定もせずに、彼らのあるがままの姿を書こうとした、著者の姿勢には、好感が持てます。
そして、この作品は、ラストが最高。
作品中には、全く、記述されていないのですが、ラストまで読んで、この本の冒頭を思い返すと、Julienのおかあさんと、Françoisの心の大きさと、Julienの小ささと馬鹿さ加減が、くっきりと浮き上がってきます。
そんなところは、とてもうまいなぁと、感嘆の念がもれました。
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