フランス人特有のユーモアとエスプリに溢れていてる新しいタイプの小説
2006-08-02
Coup de coeur
「Prenez soin du chien」
著者 : J.M. Erre
出版社 : Buchet - Chastel
ISBN-10 : 228302191X
ISBN-13 : 978-2283021910
表装 : ソフトカバー(15x2x21)293頁
| 本の内容 | ☆☆☆ | 17/20 |
| フランス語難易度 | ## | 普通 |
| 読みごごち | ♪♪♪ | すらすら |
(上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい)
ラジオの連続ドラマのシナリオを書いている放送作家Max Corneloupが、パリのDoulce-Belette通り5番地に引っ越してきた。
住宅難のパリで、ようやくのこと、満足な住居を見つけられたと、思ったのもつかの間、彼は、向かいのアパートに住むEugène Flucheが、彼の一挙一動を監視しているのに気づく。
一方、Max Corneloupの向かいのDoulce-Belette通り6番地に引越し来たばかりの、エッグ・ペインティングを専門とするアーティスト、Eugène Flucheも、自分が向かいのアパートに住んでいるMax Corneloupにより、監視されているのに気がつく。
窓のストールは故障しており、何度も修理を頼んでも、なしのつぶて。
おまけに建物の美観を損なうため、カーテンをかけることは禁止されている。
お互いに監視されていると思い込んでしまった事から、誤解に誤解が重なり、アパートのほかの住人たちを巻き込みながら事態は次第にこじれて、思いがけない方向へと展開して行く。
Maxと同じDoulce-Belette通り5番地にアパートには、住んでいるのは、
テレビ番組を録画して、それを切り貼りして、「映画を製作」する「映画監督」Zamora 、
1年前に死んだ母親に、今でも手紙を書き続けている、管理人のLadoux夫人
幼稚園、小学校、中学校の先生らに、音をあげさせている、人間と呼ぶより野獣と読んだほうがぴったり来るようなワイルドな問題児のBruno
愛犬が唯一の生きがいで、いなくなった愛犬を探し続けているうちに頭がおかしくなったBrichon 夫人
Eugèneと同じDoulce-Belette通り6番地のアパートに住んでいるのは、
度近眼で、良く間違えてEugèneの部屋へ入ってくる、訳のわからない作品ばかり書いてるエロ作家Lazarus
家具でも、電気コードでもなんでもかじってしまうアレチネズミを愛玩動物として飼っている、Raphaël Dumoget
いつも部屋で、裸体モデルを前にスケッチしている、女流画家のNoémie
等などの、ちょっと変わった人たち。
一見すると、ごく普通の常識を持っているように見える人たちなのだけど、誤解に誤解が重なり、人間関係がこじれていくにつれて、彼らは、
「ここは、精神病院?」
といいたくなるような、おかしな言動を見せ始めます。
そんな、パリのアパートを舞台に展開される、アイロニーとカリカチュアーたっぷりの小説です。
ひょんな出来事が元で、勘違いが重なり、人間関係がどんどんおかしな方向へと流されてゆく様子が、フランス人特有のユーモアたっぷりに語られます。
はじめの数十ページは、今ひとつ話の行き先がわからないので、ちょっと不安な気持ちでページをめくりました。
だけど、アパートの住人が一通り登場した後からは、どんどん話に引き込まれてしまい、ゲラゲラ笑いながら、一気に読み終えてしまいました。
私は、ブラックユーモアは決して嫌いではないけれど、最近、フランスで流行のブラックがかかりすぎたユーモアは、あまり好きになれません。
この小説は、あと一歩進んだら崖から落ちて、ブラックユーモアが嫌味になってしまうというスレスレのがけっぷちを、ものすごい速さで走っているような感じのする作品でした。
なかなか、常人には出来ない技だと感心しました。
ただ可笑しいだけではなくて、凝った立体パズルのように、緻密に構成された作品なので、一度最後まで読んでから、もう一度読み直して、どこに伏線が張ってあるのか、確認したくなります。
これをユーモア小説、又は、謎解き物と読んだしまうのに、躊躇いを感じる程、型破りな作品。
フランス人特有のユーモアとエスプリに溢れていて、とても面白かったので、新しいタイプの小説を読んでみたいとお思いの方に、是非お勧めしたい作品です。


