つぼを得た、洒落たフランス語会話の言い回しが続出する小説
2006-06-21
Coup de coeur
「Quelqu'un de bien 」
著者 : Guy Lagorce
出版社 : Omnibus
ISBN-10 : 2259187382
ISBN-13 : 978-2259187381
表装 : ソフトカバー(2x14x23)240頁
| 本の内容 | ☆☆☆ | 17/20 |
| フランス語難易度 | ## | 普通 |
| 読みごごち | ♪♪♪ | すらすら |
(上記評価は、個人的な物なので、あくまでも目安としてご参考下さい)
この小説の主人公のAntoine Paleyracは、パリの北に位置するGennevilliersの団地街に、スーパーのレジ係りをしている母親と二人で暮らす、ボクシングが大好きな15歳の中学生。
Antoineは、学業の合間をぬってFahrid、Momoという二人の親友と一緒に、倉庫荒らしをして、おこずかいを稼いでいる。
ある日、Antoineのクラスは、フランスの中学生の平均知能を測定するため行われる知能テストを受けることになる。テストの結果、意外なことに、Antoineは、飛びぬけて知能が高いことがわかり、新学期から、彼は天才児専門の学校へ通うことになった。
新しい学校のそばのボクシングジムに通うことが決まったAntoineは、夏休みの間、充電するために、生まれて始めて、祖父母が住んでいる田舎へ行くことになる。
母親は、今まで両親と仲たがいしていたため、Antoineは、祖父母に会ったことがなかったのだった。
Antoineの祖父のGabrielは、Bramefondという名の、フランスの南西にある小さな村で、パン屋を経営している。Antoineは、祖父がパンを配達しているお城に住む、製薬会社の社長Canguilhem氏とその娘Hélèneと知り合いになる。
ある日、AntoineとGabrielは、車が路傍の溝に突っ込むのを目撃する。二人は、事故車に乗っていた男を病院まで送り届けるが、それが原因で、Antoineは、殺し屋に命を狙われるはめになる。
めちゃ面白かった小説。
この作品は、15歳の男の子が語り手で、ユーモアたっぷりな話し言葉で書かれています。途中、つぼを得たうまい言い回し、可笑しいところが出てくるので、何度も腹を抱えて大笑いしてしまいました。
俗語もたくさん出てきますが、下品でないので読んでいても、ちっとも不快になりませんでした。ユーモアにあふれた言い回しと、リズムのある文章は、決して「Vulgaire」にならない「Familier」なフランス語で書かれているので、美しいフランス語とは程遠いものだけれど、読んでいて、とても心地のいいものでした。
ストーリーも、読者サービス満点で、波乱万丈。事件がこれでもか、これでもか、というように、続けて起り、主人公と読者を玩ぶので、本を手放す事が出来ず、一気に読み終えてしまいました。
去年の騒擾事件の舞台となった「Banlieu」と呼ばれているパリの団地が連立する地域で育った主人公が、田舎のおじいさんのところに遊びに行った折に、出生の秘密を知り、色々な事件に巻き込まれ、大人になって行く話しなのですが、ふつうの少年のイニシエーションの物語と違って、全然、説教じみていなくて、はちゃめちゃ。
「実は、俺、倉庫荒らしの常習犯」
と、告白する、主人公に、おじいさんは、
「大人になってグレるより、若いうちにグレた方がまし。実は俺も・・・」
なんて、言う、とっても素敵なおじいさん。彼をはじめとして、色々、魅力的な人物が出てくる作品です。
あまり、詳しく書くとネタバレになってしまうので、書けないのが残念ですが、要するに、これは、不良だった男の子が、ひと夏を出来事をきっかけに、幸運を手にするシンデレラストーリ。
実際には、ありえない話なので、ややもすれば、読者をしらけさせてしまうのだけど、著者は、魔法のような筆運びと絶妙な語り口で、そんな現実味に欠けるストーリーを、大人向けのおとぎ話に変えてしまいます。
あまりにハッピーすぎて現実味がないけれど、時々夢を見てみるのも、いいんじゃない、という気になってしまします。
ゲラゲラ笑って、しんみりして、読んだ後に心がほんわか温かくなり、しあわせになれる作品です。そんなタイプの小説を読んでみたいとお思いの方に、是非お勧めしたい作品です。


